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宮崎地方裁判所延岡支部 昭和46年(ワ)114号 判決 1975年3月11日

原告 小西政五郎

右訴訟代理人弁護士 南條保

被告 藤仲興産株式会社

右代表者代表取締役 谷仲吉

右訴訟代理人弁護士 岩佐政彦

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告「被告は原告に対し、金一、三九二、五〇〇円とこれに対する昭和四六年九月二八日(本訴状送達の日の翌日)から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

一、被告 主文同旨の判決。

第二、請求原因

一、原告は青果物の卸売及び小売を業として営む者であるが、昭和四四年一月一一日ころ、倉庫業を営む訴外第一倉庫株式会社(以下第一倉庫という)との間に八朔みかんの寄託契約を締結し、次のとおり前後一四回にわたり、二五キログラム入り木箱荷造りした八朔みかん合計五五七箱(一三、九二五キログラム以下本件八朔みかんという)を寄託し、第一倉庫冷凍庫に入庫した。

入庫年月日

数量(箱)

昭和四四年一月一四日

五三

一月一六日

五七

一月一六日

四〇

一月一七日

四二

一月一八日

三六

一月二〇日

五〇

一月二一日

一六

一月二五日

四七

一月二七日

一月二九日

五四

二月  一日

二七

二月  二日

四七

二月  四日

四八

二月  七日

三四

合計

五五七

二、ところが第一倉庫はその受寄保管中の同年三月二五日までの間に本件八朔みかんを全部腐敗させ全く無価値ならしめた。

三、原告は本件八朔みかんを同年四月ころの値上りをまって売る計画のもとに寄託していたものであるが、同年三月下旬から、四月中旬ころの延岡地方における八朔みかんの卸売相場は一キログラム当り金一〇〇円であったから、原告は合計金一、三九二、五〇〇円相当の損害を蒙ったものである。

四、被告会社は昭和四六年七月二三日第一倉庫外四会社が合併して設立された会社であって、第一倉庫の権利義務一切を承継した。

五、よって、原告は被告会社に対し右金一、三九二、五〇〇円をこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四六年九月二八日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、被告の答弁

請求原因第一項の事実のうち木箱荷造りが二五キログラム入りであった点は否認し、その余の事実は認める。同第二、第三項の各事実は否認する。同第四項の事実は認める。第一倉庫が本件八朔みかんを受寄保管中全部腐敗した事実はなく一部の八朔みかんにかびが少し生えた程度であった。すなわち第一倉庫の倉庫主任であった後藤逸夫は昭和四四年三月二五日本件八朔みかんのうち一二箱を出庫引取りに来た原告の二男に対し、木箱の外側から内部を見て八朔みかんにかびが生えていることを発見し、直ちにこの事実を告げたのにもかかわらず、原告は本件八朔みかんを同年四月三〇日までかかって前後二〇回にわたって出庫し引取っているのである。原告は青果商である以上、商品である本件八朔みかんに異常が発見されれば、直ちに全部点検し被害の拡大を防止する等の努力をなし、もし腐敗の事実があれば第一倉庫に対し厳重な抗議をなすのが通常と考えられるのに前後二〇回にわたる各出庫の際にも何らそうした手段にも出でず、第一倉庫が後日しばらくして本件八朔みかん等の保管料の支払いを原告になした際、はじめて本件八朔みかんが全部腐敗していたから保管料を支払えないといい出したものである。従って、第一倉庫が受寄保管中に本件八朔みかんが全部腐敗したとはとうてい考えられないものである。そして第一倉庫が受寄保管中一部の八朔みかんにかびが生えた原因も、原告が寄託するに際し選果方法が悪かったか、本件八朔みかんにもともと病菌が附着していたかによるものと考えられる。因みに原告とほぼ同時期に同条件で第一倉庫が受寄保管していた他の寄託者の八朔みかんは何ら腐敗していないのである。

第四、被告の抗弁

仮りに第一倉庫が受寄保管中に本件八朔みかんが全部腐敗したとしても、

一、本件八朔みかんは昭和四四年三月二五日から同年四月三〇日までの間に全部出庫を終り原告に引渡されているものであって、原告が本訴を提起した昭和四六年九月一六日までに一年以上も経過しているので、被告は本訴において商法六二六条一項による時効を援用する。

二、仮りに右主張が認められないとしても第一倉庫は冷凍倉庫寄託約款を有し、寄託者と寄託契約を締結する場合全て右約款によりこれをなしていた。そして、右約款内容は第一倉庫冷凍庫出入口ドアーの横に寄託者の眼につきやすいように掲示して公示されていた。従って本件寄託契約についても右約款の適用を受けるものであるところ右約款三七条によれば寄託者に対して第一倉庫が賠償の責任を負う損害は第一倉庫又はその使用人の故意又は重大な過失によって生じた場合に限る旨、及びその場合に第一倉庫に対して損害賠償を請求しようとする者はその損害が第一倉庫又はその使用人の故意又は重大な過失によって生じたものであることを証明しなければならない旨規定されており同規定は商法六一七条の特則をなすものである。従って、原因において本件八朔みかんが全部腐敗したことが第一倉庫又はその使用人の故意又は重大な過失によって生じた事実を主張立証しないかぎり、第一倉庫は賠償の責任を免れうるものである。

三、仮りに本件寄託契約について右約款の適用が認められないとしても、第一倉庫が本件八朔みかんを受寄保管中冷凍庫の冷凍機が故障した事実もなく他に保管方法が不適切であった事実もなく、原告とほぼ同時期に同一条件で第一倉庫が受寄保管していた他の寄託者の八朔みかんは何ら腐敗していないのであるから、第一倉庫は善良なる管理者の注意を怠っていなかったというべきである。

四、原告は青果物である本件八朔みかんを第一倉庫に寄託したまま点検等を全くなさず第一倉庫にあずけたままにし、その結果本件八朔みかんの腐敗を拡大させたものであって、青果業者として損害の発生及び拡大を防止すべき注意義務をつくさなかった過失があるものというべくかかる過失はその損害額につき斟酌されるべきである。

第五、被告の抗弁に対する原告の認否

抗弁第一項の事実のうち原告が本件八朔みかんを被告主張の日までに出庫し終っていたこと、原告の本訴提起が出庫後一年以上を経過してなされたことは認め、その余の事実は否認する。同第二項、第三項、第四項の各事実は否認する。

第六、原告の再抗弁

一、第一倉庫の倉庫主任後藤逸夫は、原告が本件八朔みかんのうち一二箱の出庫を始めた昭和四四年三月二五日、本件八朔みかんにかびが生えていた事実を知っていたものであり、甘橘類の冷蔵保管を業として扱っている第一倉庫としては、甘橘類に外見上たやすく発見しうる状態にかびが生えている時はその甘橘類は全部腐敗していることは経験上明白な事実であることからして本件八朔みかんの腐敗の事実を知って原告にこれを引渡したものというべく、商法六二六条三項に規定する「倉庫業者ニ悪意アリタル場合」に当るというべきである。因みに右「悪意アリタル場合」とは商法六二五条が同法五八八条を準用しているところからして、同法五八八条二項及び同法五八九条の準用する同法五六六条三項にいう「悪意」と同法六二六条三項にいう「悪意」とは同一意義と解するを相当とするところ、同法五八八条二項および同法五八九条の準用する同法五六六条三項にいう「運送人ニ悪意アリタル場合」とは運送人が運送品に毀損又は一部滅失のあることを知って引渡した場合をいうものと解するを相当とする旨の最判昭和四一年一二月二〇日の判例が存する。

二、仮に右主張が認められないとしても、原告は昭和四四年一一月二五日本件八朔みかん等の保管料の請求に原告方を訪れた前記後藤逸夫に対し、本件八朔みかんが全部腐敗していた事実を告げ、右保管料の支払いを拒絶するとともに、原告の蒙った損害の賠償につき第一倉庫と示談にて解決したい旨申込んだところ、後藤逸夫は「上役と相談して返答するから、待ってくれ」と述べ、示談に応ずるや否やにつき後日返答をなす旨約したものである。

(1)  しかるに第一倉庫は右返答をなさないのであるが、かかる場合商法五〇九条の趣旨により第一倉庫は右示談によって解決したい旨の申込みを承諾したものとみなすのが相当というべきであるから、結局第一倉庫は昭和四四年一一月二五日自らの責任を承認したものとみなすを相当し、被告の時効は中断したものというべきである。

(2)  仮りに第一倉庫が原告の示談によって解決したい旨の申込みを承諾したと解されないとしても、右申込みは民法一五三条にいう催告と解すべく、これに対して前記のとおり後藤逸夫は前記のとおり後日返答する旨約束し、原告はこの約束を信用して法定の手続をさしひかえていたものであるから、第一倉庫がこれに対して何分の回答をなすまでは右催告の効力は存続し消滅時効は進行しないと解すべきである。

三、仮りに被告主張の約款が存在していたとしても、第一倉庫は本件寄託契約の締結に際し、自ら右約款に規定する取扱いによらない取扱いをなしていたものである。すなわち、乙第一号証(冷蔵倉庫寄託約款)によれば、その八条に寄託者は貨物の寄託に際し当該貨物に関して六項目にわたる事項を記載した寄託申込書を第一倉庫に対し提出しなければならない旨定められているのに、第一倉庫は本件寄託契約の締結に際し右寄託申込書の提出を要求した事実はなく、専ら口頭による寄託申込みにより寄託物の種類、数量、寄託者氏名を伝票に記入したのみで寄託を引受けたものである。そうとすれば第一倉庫は自ら右約款によらない取扱いで寄託を引受け、損害を生じた場合に至って右約款による免責を主張するものであって、本件寄託契約に右約款の適用があるとする被告の主張は信義則に照らし許されないものというべきである。

四、仮りに本件寄託契約に被告主張の約款の適用があるとしても、第一倉庫には本件八朔みかんの保管につき重大な過失があった。すなわち、原告は本件八朔みかんを第一倉庫に寄託するに際して前記後藤逸夫らに対し特に「三ヶ所に分散して蔵置し、その保管については木箱と木箱の間隔を置いて荷積みし、冷気が充分侵透するよう注意して欲しい」旨告げていた。そして昭和四四年二月下旬ころ原告が本件八朔みかんの様子を見た際には原告の指示どおり三ヶ所に分散して木箱と木箱の間隔を置いて荷積みされていたところが原告が同年三月二五日本件八朔みかんのうち一二箱を最初に出庫した際には本件八朔みかんが一ヶ所にしかも木箱と木箱の間隔もない状態に積み上げられていたものであって冷気の侵透は阻害され、むれを生じている状態に置かれていた。冷凍倉庫業者としては甘橘類を一ヶ所に累積してしかも木箱と木箱の間隔もない状態に荷積みする時はいかなる冷凍室といえども寄託品の内部に冷度が充分侵透しないことは容易に察知しうるものであり、かかる荷積み方法は避けるべき注意義務があるというべきである。しかるに第一倉庫は本件八朔みかんを当初原告の指示どおり三ヶ所に分散して荷積みしていたのにその保管中において一ヵ所にしかも木箱と木箱の間隔もない状態に積みかえたものである。又本件八朔みかんを荷造りした木箱はその上部のふたのすき間から容易に内部を点検することができ、手を差し込んで触手することも容易にできる状態にあったにもかかわらず、第一倉庫はその保管中本件八朔みかんを点検せず放置していたもので、その結果本件八朔みかんは全部腐敗するに至ってしまったものである。

第七、原告の再抗弁に対する被告の認否

再抗弁第一項の事実のうち第一倉庫の倉庫主任後藤逸夫が昭和四四年三月二五日、本件八朔みかんのうち一二箱の出庫に際して八朔みかんにかびが生えていたことを発見したことは認めるが、その余の事実は否認する。因みに商法六二六条三項に規定する「倉庫業者ニ悪意アリタル場合」の「悪意」とは倉庫業者が寄託物を故意に滅失毀損せしめた場合、又は滅失毀損の事実を故意に隠蔽する場合をいうと解するを相当とするところ、仮りに本件八朔みかんが全部腐敗していたとしても第一倉庫には故意に腐敗させた事実も、腐敗の事実を故意に隠蔽したこともない。同第二項の事実は否認する。同第三項の事実のうち本件約款に原告主張の条項が存すること、本件寄託契約締結に際し原告に寄託申込書の提出を求めず、口答による寄託申込みによる取扱いをなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。同第四項の事実は否認する。第一倉庫が本件八朔みかんを一ヶ所に積みかえたりした事実は全くない。

第八、証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因第一項の事実(但し、木箱荷造りが二五キログラム入りであった点を除く)、同第四項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を総合すると、

(1)  本件八朔みかんは第一倉庫の第四号冷凍室内の一、二階部分の各一区画に木箱と木箱が三ないし五センチメートルの間隔があくようにして木箱を互い違いに荷積みし保管されていたこと(なお≪証拠省略≫中、本件八朔みかんは入庫する際三ヵ所に分散して荷積みされていたのに昭和四四年三月二五日本件八朔みかんを最初に出庫した際には一ヶ所に積みかえられていた旨の供述部分が存するが、右供述部分は≪証拠省略≫に照らし措信しがたく、他にこれを是認しうる証拠もない。)

(2)  本件八朔みかんは昭和四四年三月二五日一二箱、同月二六日二一箱、同月二九日二〇箱、同月三〇日三〇箱、同年四月二日二〇箱、同月三日二三箱、同月六日二五箱、同月七日二五箱、同月八日三〇箱、同月九日三二箱、同月一〇日三五箱、同月一一日四一箱、同月一三日三一箱、同月一四日三三箱、同月一五日三〇箱、同月一七日三四箱、同月一八日三三箱、同月二〇日二〇箱、同月二三日二〇箱、同月三〇日四二箱と出庫されたこと。

(3)  昭和四四年三月二五日原告の子の小西清次郎が本件八朔みかんのうち一二箱を出庫する際、第一倉庫の倉庫主任後藤逸夫は木箱の上部のすき間から内部の八朔みかんの状態を見て青白いかびが八朔みかんの表面に生えていることに気づき、直ちに右小西清次郎にその事実を告げ、冷凍室内に荷積みしてある他の木箱の一部についても同様にして点検してみたところ、同様に八朔みかんの表面に青白いかびが生えている状態であったこと。

(4)  その後原告は本件八朔みかんを前記(2)記載のとおりほぼ連日にわたって出庫するに至ったのであるが、青白いかびが八朔みかんの表面に生えている状態は全ての木箱にみられ出庫が遅れたものほど、ひどくなっていたこと。

(5)  原告及びその妻小西朝枝らは、前記(2)記載のとおり本件八朔みかんを順次出庫したものの、全て腐敗の状態で商品価値は全くなかったため、電話もしくは各出庫の際等に前記後藤逸夫に対し、右腐敗の事実を告げ、原告方へ来て腐敗の事実を確認してもらいたい旨要請したが、後藤逸夫はいろいろ口実をもうけては原告方へ赴こうとせず、結局原告は右腐敗の事実を第一倉庫から確認してもらえないまま、本件八朔みかん全部を廃棄したこと。

以上の各事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば本件八朔みかんは昭和四四年三月二五日の時点においてその表面に青白いかびが生えている状態にあるものの存在が確認され、以後順次出庫した全てについても同様の状態にあった事実が認められるのであるから、特段の事情の認められないかぎりその表面にかびが生えた八朔みかんは腐敗もしくは腐敗直前の状態にあり、その商品価値はないものと推認するのが相当であり、本件八朔みかんは第一倉庫の冷凍室に保管中に全て毀損されたものといわざるをえない。

三、そこで以下被告の抗弁一について検討する。

本件八朔みかんが昭和四四年三月二五日から同年四月三〇日までの間に原告によって全部出庫されたことは当事者間に争いがなく、原告の本訴提起が昭和四六年九月一六日なされたことは本件記録上明らかである。従って商法六二六条一項に規定する一年の時効期間を経過して本訴が提起されたこと明らかであるから、以下右消滅時効の抗弁に対する原告の再抗弁について検討することとする。

(1)  再抗弁一について、

商法六二六条三項に規定する「倉庫業者ニ悪意アリタル場合」の「悪意」の意義については、同条が倉庫業者の責任について短期消滅時効を定めた趣旨を大量の寄託物を取扱う倉庫営業の性質に基づく証拠保全の困難の救済をはかり、もって倉庫業者の責任関係全体を速やかに解決せしめ、倉庫営業を保護することにあると理解されるべきことからすれば、この保護を奪う事由たる同条三項の「悪意」についてはなるべく制限的に解するのが相当というべく、倉庫業者又はその履行補助者が寄託物に故意に損害を生ぜしめ、あるいは損害を故意に隠蔽した場合をいうものと解するのが相当というべきである。もし損害を単に知っていたことをもって右悪意の意義を理解するならば、寄託物が全部滅失した場合においては倉庫業者は当然に損害発生を知っているのであるから常に悪意であることにならざるをえず、同条二項の規定はその意味を失うこととなるといわざるをえない。因みに、同法六二五条が運送人の責任の特別消滅事由に関する同法五八八条を倉庫営業者に準用し、同法五八九条が運送取扱人の責任の短期消滅時効に関する同法五六六条を運送人に準用していること、及び同法五六六条と同法六二六条とはその規定の仕方からもその目的とする趣旨からもほぼ同一の意義を有するものと理解されることから考えて同法五六六条三項に規定する「悪意」と同法六二六条三項に規定する「悪意」とは別異の意義に解釈すべき理由は見出せないというべきところ、同法五八八条二項及び同法五六六条三項にそれぞれ規定する「悪意」について運送人が運送品の毀損又は一部滅失のあることを知って引渡した場合をいうものと解する最判昭和四一年一二月二〇日民集二〇巻一〇号二一〇六頁が存する。従って同法六二六条三項に規定する「悪意」についても右判例と同様に解すべき余地がないとはいえないものの、当裁判所は前述した理由をもって右判例の立場に賛成しえない。

そして本件全証拠によるも本件八朔みかんの毀損につき第一倉庫又はその履行補助者と認められるべき者が故意にそれを生ぜしめあるいは故意にそれを隠蔽した事実は認められない。

よって被告の再抗弁一は理由がなく採用しない。

(2)  再抗弁二の(1)について、

原告は昭和四四年一一月二五日被告がその賠償義務を承認したものとみなすべき旨主張するところ、仮りに右主張が認められるとしても原告の本訴提起が昭和四六年九月一六日に至ってなされたこと前記認定のとおりであることからして、右承認とみなされる時点から再に一年以上の経過をみていること明らかである以上原告の右主張は結局それ自体失当といわざるをえず採用しえない。

(3)  再抗弁二の(2)について、

≪証拠省略≫を総合すると、

(イ)  原告は昭和四四年一一月二〇日ころから同月二五日ころまでの間に、本件八朔みかんの保管料の請求に原告方を訪れた第一倉庫の倉庫主任後藤逸夫に対し、本件八朔みかんが全部腐敗した事実を告げ右保管料の支払いを拒否し、本件八朔みかんの腐敗による損害を賠償して欲しい旨述べ、第一倉庫の上役と話合いで解決したい旨述べたこと、

(ロ)  これに対し後藤逸夫は「自分は何の返答もできないので上役と話して返事する。」旨答えて原告方を辞去したこと、

(ハ)  後藤逸夫は原告の右申出でを第一倉庫の取締役で実質上倉庫営業に関する一切の監督的立場にあった柳井宏に対しても、その余の上司に対しても何ら告げないでいたこと、

(ニ)  後藤逸夫は第一倉庫において倉庫主任として寄託物の入出庫保管業務、冷凍機の運転管理をその業務内容としていたこと、

以上の各事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告の本件八朔みかんの腐敗による損害を賠償して欲しい旨の意思表示は民法一五三条にいう催告と解することができるといいうるものの、前記後藤逸夫は第一倉庫のいわゆる主任にすぎず商法四三条に規定する商業使用人というべきであるから、同人が第一倉庫から委任された業務内容に関する事項についてのみ裁判外の包括代理権を有するものというべきところ、原告の右意思表示はいわば寄託物の保管業務に関して生じた損害についてその賠償を求めるものと解されることからして同人に右意思表示を受領する代理権は付与されていたものと推認すべきではあっても、原告の右意思表示に対して、同人が権限ある上司にそれを取りつぐべき義務があるというべきは別段、自らそれに対し回答し、あるいは第一倉庫のそれに対する態度決定までの猶予を求める等の代理権を付与されていたものと解することはできないというべきである。

そうとすれば、同人が原告の右意思表示に対し「上役と話して返事をする。」旨回答した事実をもって、その返事があるまではその催告としての効力が存続するというべき旨の被告の主張は、他に特段の事情の認められない本件にあっては理由がないものというべきである。

よって再抗弁二の(2)は採用しない。

そうとすれば、被告の商法六二六条一項による短期消滅時効の抗弁は理由があるというべきである。

四、よって、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がなく失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川克介)

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